ヒト

日本のベンチャーってどう? フランス人エンジニアに“働き方”を聞いてみた

 

ピピピ。

コンニチハ!

 

ワタシは宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴さんが考案した宇宙ロボ、「みすず3号」です。

ワタシ、宇宙ビジネスに携わるエンジニアや企業たちを世に広めるために開発されたから、“宇宙を舞台に活躍する人”をつかまえて話を聞くのが趣味なの。

 

今回お話を聞くのは、日本橋にあるこのベンチャー企業よ。

 

アクセルスペースですって。なんだか加速感あふれる名前よね。どんな会社なのかしら。さっそく入ってみるわ。

 

「ボンジュール!」

 

 


え? ボ、ボ、ボンジュール?

 


はじめまして。ルカといいます。フランス人です。


あら日本語がお上手! 日本橋のベンチャー企業にフランス人がいるってのも不思議な感じね。


ふふふ。わたしは日本の大学も出ていますし、この会社に入ってもう3年以上になりますよ。

 

フランス人エンジニアが日本のベンチャーで何をしている?


こちらの会社、アクセルスペースさんって何をしている会社なのかしら。


アクセルスペースは、超小型人工衛星の設計開発とそのデータ提供を中心事業としているベンチャー企業です。


超小型人工衛星! なんだか面白そうね。で、そのなかでルカさんが担当している業務はどのようなものなの?


そうですね、ベンチャーですからタスクはいろいろあります。メインとしてはソフトウェア開発をしています。あとは、衛星のパイロッティング、運用ですね。


衛星の運用って、何やらすごそうね。大きな画面をじっと見ながら衛星を操作している感じかしら?


いえ、大きい会社であればそうかも知れませんが、小さいベンチャーですからピッタリ張り付いているわけにはいかないのです。自動で運用できるようにしていて、そのシステムもわたしが作っています。


あら、自動で衛星を動かしているなんてすごいわね。


あとは、シミュレーションも担当しています。仮想環境を使って、システムを衛星に載せる前に試すわけです。それと、デザインもやってますね。


ちょっと待って、デザインって?


はい、例えば……この会社パンフレットもわたしがデザインしました。あと、オフィスの内装の選定とかもします。


ちょ…、それもうエンジニアじゃないわよね。


わたしの家はデザイナーの家系なので、こういうの興味あるんですよ。


いや、だからといって……。


実はアクセルスペースには「10%ルール」というのがあるんです。仕事時間のなかで10%は好きなことができるっていう。


ああ、確かGoogleが「20%ルール」ってのをやってたわよね。そこからGmailとか主要サービスが生まれていったって聞いたことあるわ。


そうそう、それです。わたしもその時間を使ってデザイン業務をよくやっているんです。

 


この頭上にあるオサレなランプもルカさん達が選定したのだとか

 

小型衛星はビッグデータの1つである


そういう取り組みはベンチャーっぽいわね。そもそもアクセルスペースさんって、お客さんからどうやってお金をいただいているのかしら。


はい、大きく2つのスタイルがあるのですが、お客さんが衛星を買うパターンと、アクセルスペースの衛星データをお客さんが買うパターンですね。


なるほど、衛星を買うかデータを買うか。いずれも買ってお客さんは何をするのかしら? 衛星っていうと気象衛星が思い浮かぶけども。


はい、世界中にある衛星の役割は様々ですが、私たちの衛星では画像を撮っています。そしてその画像データをそのまま使うのではなく、解析をしたうえでインテリジェンスを提供しています。

 


アクセルスペースの衛星が撮影した富士山(提供:アクセルスペース)

 


インテリジェンスの提供……。なんだか難しくて耳から煙が出そうだわ。


す、すいません。分かりやすく例を出しましょうか。例えば農業において、衛星から農家の畑を撮影します。そして、畑の色の変化を見ながらデータを解析します。そうすると「もう収穫したほうがいい」とか「この部分は農薬を撒いたほうがいい」とか、そういったことがパッと見てすぐに分かるんです。


そうか、衛星からだと一目瞭然だものね。


はい、データを整形しながら農家さんの持つ端末に分かりやすく表示しますので、その画面を見ながら自分の農地を管理できるのです。従来までの農業だとすべての畑を毎日見まわったり、一律で農薬を撒いていたりするわけです。


なるほど、農家さんも無駄に歩き回らなくていいし、効率的に質のいい野菜ができるというわけね。


はい。林業における森林伐採でもそうです。伐採状況もパッとみて分かりますし、不法に伐採されていても分かります。あとは、長距離に及ぶ石油のパイプラインで、パイプが損傷して石油が漏れていないかどうかも分かります。


なるほど、空から広域にわたって俯瞰で見れるものね。私たちに身近な使われ方ってあるのかしら。


そうですね、自動車の検出でしょうか。たとえばショッピングモールなどの大きな駐車場では混雑具合がすぐに分かりますので、マーケティングデータとして活用できます。


そうか、アミューズメントパークみたいな大きな商業施設だと色々使えそうね。なんだかすごいのは分かるけど、これって弱点とか無いのかしら。


弱点といえば、画像ですので雲があると見えないことでしょうか。ですから、天気予報と連動させながら、効率的に撮影できるよう制御しています。


あと、プライバシーってどうなのかしら。衛星から自分のことをじっと見られていたら気持ち悪いわよね。私が昨日フラフラ遊んでいたことも衛星からバレバレだったりして……


いえ、解像度からいって人の顔やナンバープレートまでは認識できないのでプライバシーは侵害しないんです。あくまで農地の状態や車の個体が認識できるレベルですね。これらのデータは単体でも使えますが、今ある他のデータとも組み合わせながら様々な分析ができます。いわゆる“ビッグデータ”の1つとして有効だということですね。


聞いたことあるわ、“ビッグデータ”。なんだか他にも色んなことに使えそうよね。


ええ、まだまだ私たちでも考え付かないような利用法があるはずなんですよね。宇宙のことなんて全然知らない、という企業さんにもどんどん使ってほしいと思っています。

 


衛星の模型を持って微笑むルカさん

 


データの使われ方は分かったけども、衛星を買うっていう場合はどうなのかしら?


はい、先ほど仰っていた気象衛星なんかは、買おうとすると300億円前後はするんですよね。


300億!


これはあくまで政府やJAXAなどを対象にしています。大型の衛星には様々な機能が搭載されていますが、私たちは撮影だけがしたいのでシンプルな構造でいいのです。


で、実際にアクセルスペースさんの衛星を買うとしたらおいくらなのかしら…(ゴクリ)


官製の大型人工衛星が数百億円なのに対して、弊社の超小型人工衛星は100分の1の数億円でお買い求めいただけます。


あら安いわ! ……とは言え冷静に考えたら私にはちょっと難しいわ…。でも、企業さんだったら買える値段よね数億円って。


ええ、まさに気象情報を扱うウェザーニューズさんにもご購入いただいてます。


小さいから安いっていうのは分かるけど、宇宙に打ち上げるのも結構お金かかるんじゃないの?


打上げは自社でやっておらず、ロケット会社に委託をして打ち上げてもらっています。それも、衛星を打ち上げるためにロケットを飛ばすのではなく、なにかのついでに載せてもらっているんです。


ついでに載せてもらうって、そんなヒッチハイクみたいなことあるの?


ええ、「ピギーバッキング」と呼ばれるんですが、たとえばロケットの中に100kgほど載せられる空きスペースがあったら実際にはバランスをとるために100kgの金属を載せたりしているのです。なので、“その余計な金属100kg載せるなら少しお金出すから衛星を載せてついでに飛ばしてよ”という仕組みですね。


へえ、それはお互いにメリットあるからいいわね。


ええ、だからコストも抑えられているのです。

 

フランス人から見た日本のベンチャーとは


そもそもルカさんは、なんで日本のこの会社を選んだのかしら?


はい、もともとフランスの宇宙大学にいましたが日本の大学でも宇宙のことを学ぼうと思って東京大学に入りました。研究室はJAXAの川口研究室というところです。


え、もしかして「はやぶさの父」と呼ばれた川口淳一郎博士


ええ、その通りです。そして大学卒業の際にヨーロッパに戻ろうかとも考えたんですが、ヨーロッパには魅力的な宇宙企業が無かったんですよね。


あら、そうなのね。たくさんありそうな気もするけど。


ヨーロッパの宇宙企業もインターンで経験してみましたが、どこも企業規模が大きすぎてわたしのモチベーションが満たされなかったんです。そこで、小さなベンチャーがいいなぁと考えるようになりました。


アメリカは選択肢には無かったの? 小さなベンチャーってたくさんあるんじゃないかしら。


確かにアメリカだと宇宙ベンチャーもたくさんあるんですが、法律的に色々とアメリカ人が優先されるようになっているので、アメリカの企業に行こうとは思いませんでした。そこで紹介してもらったのがこのアクセルスペースです。当時はまだ12名くらいで今の半分以下の規模でしたが、中村社長の話を聞いていたらとてもワクワクしたんです。


でも実際に入ってみたら、ベンチャーだから大変でしょう? つらいこととかないですか?


特にないですよ。会社が小さいぶん責任も大きいのでプレッシャーもありますが、逆にいえば自由度も大きいですから楽しいです。楽しいことのほうが多いですね。

 


「衛星の組立ても楽しそうですよね」と違う業務にも興味津々

 


ベンチャーって夜中まで仕事しているイメージだけど、実際のところはどうなの?


場合にもよりますね。もともと社内には固定された勤務時間がありません。全員がモチベーション高く働いているので決められた固定時間なんていらないんです。あの制度です。あの、さいろう…さいりょうろう…


裁量労働制のこと?


そう、裁量労働制。日本語ってむずかしいですね。……えっと、たとえば2日間集中して何かに取り組んで、2日間はゆったり仕事する、みたいなサイクルで仕事をしたりします。集中する時はのめり込みますから、時間が何時になっていようが構わないんです。逆に「8時まで」とか決められてしまうと効率が悪い


確かにそうかもね。せっかく集中して取り組んでいるのに、さえぎってしまったらもったいないものね。


ですから集中している時には夜中になっていることもありますけど、日本でよく言われているような、いわゆる“ブラック企業”とは違うわけです。そもそもアクセルスペースに参画する際もブラック企業かどうかはちゃんと確認しましたし。


あら、フランス人も知ってる単語なのね、「ブラック企業」って。実際に働いてみて、どんな雰囲気なのかしらベンチャー企業って。


少し働き過ぎたりすると、すぐ社長も心配してくれますし、とっても良い雰囲気の会社ですよ。基本的にみんな楽しみながら仕事をしているので、何もつらくないのです。昨日も日曜日でしたが、有志を募ってオフィスの隅に畳のスペースをつくったりしました。


畳のスペース! またデザイナー家系の血が騒いじゃったわけね。


はい(笑) みんなでDIYしながらピザを食べたりして、楽しかったです。

 


これがその畳スペース。なんということでしょう、下は収納になっていました。

 


楽しそうでいいわねぇ。そんなルカさんから日本の若いエンジニアを見ていて思うことってあるかしら?


そうですね、「もっと好きなことをやったらいいのに」って思いますね。わたしも早くから「宇宙が好き」と気づいて行動してきましたから、いまとても楽しく仕事ができています。好きなことを見つけるというのは大変ではありますけども、大事なことですよね。面接でも、スキルよりもその人の内面にあるモチベーションを確認しています。


モチベーションの源泉になるのが「好きかどうか」ってことね。


そういうことです。「給料はいくらだろう」「残業代は出るだろうか」ってお金ばかり気にしちゃっても仕事ってうまくいかないと思います。自分のライフはひとつしかないのですから、できるだけ好きなことをしたほうがいいですよね。


確かにそうよねぇ。そういった意味ではやっぱりベンチャーを選んで良かったってこと?


ええ、ベンチャーであればタスクの種類を選べますし、固定されません。色んな仕事を経験できるぶん、好きなことも見つけやすいし楽しい。あ、もう一つアドバイスするとしたら、「転職を考えているエンジニアがいたら、うちの会社に是非きたらどうですか?」ってことですかね(笑)


おっと、ここへきてエンジニアの求人募集?


でも実際、会社が急成長していて人が足りないですね。アクセルスペースには色んな業界から人材が来ています。昔は宇宙のことをやりたい人は大学で専門的に勉強していないとダメでしたが、今はそんなことありません。私の隣の席のエンジニアも以前は自動車業界のソフトウェア開発者ですし。


へえ。さっきの衛星活用の話といい、もう宇宙業界は身近になっているのね。


はい。技術者にとっても宇宙業界はもう特別ではないんです。これからどんどん広がっていくはずですし、ベンチャーはものすごくエキサイティングで楽しいと思いますよ。


日本の宇宙ベンチャーはこれからが楽しみなのね。

 

ルカさん、今日はありがとうございました!

興味のある人はアクセルスペースの求人募集を見て、話を聞きに行ってみてはどうかしら?

 

それではまた!

 

ピピピ。

 

取材協力:AXELSPACE・JAXA
取材+文:プラスドライブ/原 正彦
画像制作:Adesign

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