船舶もハイブリッドの時代へ!トヨタとヤンマーの複合素材
2016年3月に、トヨタ自動車とヤンマーはマリン事業での業務提携に基本合意したと発表しました。
今回の協業の中で最初の共同開発が複合素材を用いた船体の開発です。
FRPと比べて約7倍の剛性と、アルミニウム製と比べて10%の軽量化に成功したとされる今回の船体は、どのようなものなのでしょうか。
今回は新たなハル(船体)についてご紹介しましょう。
Contents
トヨタとヤンマーの強みを併せる
トヨタ自動車は、アルミニウム製ハルと自動車用エンジンを組み合わせたプレジャーボート(海洋レジャーに使われる船艇)を製造、販売しています。
そしてヤンマーは、産業用ディーゼルエンジンのノウハウを生かした船舶用エンジンと、FRP製のハルで設計したフィッシングボートや業務用船舶を生産しています。
アルミ製ハルは高度な加工技術が必要で、その生産性に課題がありました。
そのためトヨタ自動車は、アルミと同等以上の剛性があり、生産性向上が見込めるFRP、カーボン、アルミニウムの複合素材によるハルの開発を進めたのです。
複合素材を使ったトヨタハイブリッドハル
トヨタハイブリッドハルはFRPをベースにアルミニウムとカーボン繊維を使用します。
空気を抜いた状態で樹脂を型に流し込み、3つの素材を一体成型する真空注入成型で生み出されます。
中でも最大応力のかかる船底箇所は、中間材として発泡材を加えた多層構造になっています。
この多重構造を同時に成型するため、生産性向上も見込まれます。
これによって、従来のアルミニウムの溶接では困難だったデザインが可能になり、走航安定性の高い船底形状が可能となりました。
トヨタハイブリッドハルを採用したコンセプト艇
「素材」「構造」「形状」といった3つの観点で大幅な見直しを実施したトヨタハイブリットハル。
FRPとアルミが持つそれぞれの特長を活かしつつ、新素材のカーボン繊維を加えることでFRPハルと比べ、約7倍の高剛性を実現できました。
また、アルミのハルとの重量比較で約10%低減できたのです。
そうして生み出されたコンセプト艇が、「TOYOTA-28 CONCEPT」です。
この試験艇はハイブリッドハルのスペックから、従来の同型艇を凌ぐ走破性、旋回性能を実現できました。
トヨタとヤンマーの繋がりは強く
トヨタ自動車はヤンマーと共同開発したこのハルで、プレジャーボートのラインアップを強化するとともに、ハイブリッドハルの生産能力を増強する狙いがあります。
そして、この技術をもとに船舶以外でもヤンマーとの協業を強める意向を示しています。
注目のハイブリッド船「エコシップ」
トヨタとヤンマーの共同開発で、船舶は次のステージに向かいます。
もう一方で、三菱重工・商船三井・パナソニックが共同開発したハイブリッド自動車船「エメラルドエース」もエコシップと呼ばれる環境負荷低減船として、注目されています。
大きな特長は、太陽光発電システム(太陽電池)と蓄電システム(リチウムイオン電池)によって、停泊中にディーゼル発電機を停止し、二酸化炭素の排出量を大幅に抑えられることです。
航海中に太陽電池で電力を確保し、それを停泊中に使用することで、最終的には世界初の二酸化炭素のゼロエミッション(排出量ゼロ)を目指しています。
太陽光発電を搭載した船舶は、過去にもあったものの天候に影響を受け、電気の供給が不安定なことに加え、思うような出力が得られないという問題もありました。
エコシップでは発電した電力を蓄電できるシステムを搭載することによって、それらの問題を解決したのです。
エンジンとモーターを備えたハイブリット船は生まれない?
さまざまな企業が造船の未来を見据え、プロジェクト進めていますが、ハイブリッドカーにあるようなエンジンとモーターを備えたハイブリッド船が生まれてもよいのでは?という考えが生じます。
しかし、実際にはそのようなハイブリッド船が作られることはむずかしいでしょう。
ハイブリッドカーは、出力の急激な変動に対して推進効率の高いエネルギーを選択し、ブレーキ時に発生する回生エネルギーを上手く利用するという特性を持っています。
つまり、停発車やスピードの緩急が何度も繰り返される場合に、より高い効果が発生します。
船には、信号や坂道といったものはなく、自動車に比べ速度の変動があまりありません。
停止時にもプロペラの逆回転を利用しているため回生エネルギーを生まないのです。
したがって、エンジンとモーターを兼ね備えたハイブリッド船を作ったとしてもその特性を上手くいかせない可能性が高いといわれています。
特に、小型船では「費用対効果が少ない」という現象が顕著に現れてしまうため、そのようなハイブリッド船の造船は現実的ではないでしょう。
電力のみで推進するハイブリッド船の開発
電気自動車のように、電気を主な燃料する推進システムをもつ電池推進船の開発は進められています。
東京海洋大学では、世界初の急速充電対応型電池推進船「らいちょう」を開発しました。
らいちょうはリチウムイオン電池・推進モーターを動力とすることで推進力をディーゼルに頼らず、航行中に排気ガスや二酸化炭素を出さないエコシップ。
また、エコマリンパワー社が開発する「とんぼ」は低速走行時、オール電気モードで運航可能です。
二酸化炭素の排出や騒音など、従来の船舶のデメリットを大きく軽減しています。
船舶の新たな未来
トヨタとヤンマーの複合素材をはじめ、船舶は新たなステージへと向かっています。
需要が増えている液化天然ガスを運ぶLNG船の開発も求められ、環境への影響が少ないエコシップの需要は高まるでしょう。
そのためには、技術開発や実証実験が必要不可欠ですが、多くの企業や団体が懸命にエコシップの開発を進めているため、これからの船舶の未来は明るいといえるでしょう。