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コラム

2018.03.27

カジノハッキング ~映画「ラスベガスをぶっつぶせ」に学ぶ一攫千金の公算 1/3~

映画「ラスベガスをぶっつぶせ」は、授業料と生活費に困った大学生が、数学理論にたけた学生たちとチームを作り、ラスベガスに乗り込み、カードゲームのブラックジャックで大金をつかもうとする痛快な物語だ。この話はほぼ実話であるということに驚かされる。

そしてここ日本においても、2016年末の統合型リゾート整備推進法案(IR法)の可決に伴い、統合型カジノが出来た暁にはブラックジャックでいざ一攫千金と、この映画に刺激をされた方もいるかもしれない。果たして我々にもカジノをハック出来る可能性はあるのだろうか。

ラスベガスをぶっつぶせ

『ラスベガスをぶっつぶせ』 ©2008 COLOMBIA PICTURES INDUSTRIES,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

1.「ラスベガスをぶっつぶせ」のハックは再現できるか

映画のモチーフとなったのは、マサチューセッツ工科大学で1979年に結成されたMITブラックジャックチーム。さらにここにハーバード大学の学生も加わり、数学の天才たちがカジノ必勝法を編み出した。そして、80年代にラスベガスのカジノを荒らし回る。

彼らの手法はイカサマではなく、まだ使われていないカードの枚数から勝つ確率を計算するという正攻法だった。最盛期には70名ほどのメンバーがいて、22の投資家、投資機関から資金を調達し、最高で年300%、最低でも年4%の配当を渡していた。

数学理論を使えば、カジノで一攫千金を得ることができるかもしれない。この世で最も浮ついたあぶく銭を得て、最高にくだらない無駄遣いをしてみたい。そんな願望は誰でも一度は持ったことがあるはずだ。しかし夢を見るのは映画の中だけにしておいた方がいい。実は、カジノは必ず負けるようにできているのだ。カジノは勝とうとするのではなく、用意した資金をプレイ代金として支払って、雰囲気やスリルを楽しむ遊び場である。

2.ルーレットは回すほどに勝算が低下する

例えば、「カジノの女王」と呼ばれ、最もルールがわかりやすいルーレットを例に考えてみよう。アメリカンタイプのルーレットには38の出目があり、1から36までの当たりがある。しかし、0と00という目があり、ここに入ったらハズレとなり、これがディーラーの取り分、つまりカジノ側の収入となる。これは、2/38=5.3%で、カジノ側の収入は掛け金の5.3%となる。

アメリカンルーレット

38の出目があるアメリカンタイプのルーレット

カジノは、「私どもは、わずか5.3%のハウスエッジ※1しかいただかないのです」と説明する。こう説明されると、100万円の資金を持ってカジノに乗り込んでも、悪くても90万円ぐらいの資金が残るだろうし、うまく立ち回れば元金を増やせそうな気になってくる。

しかし、これが言葉のトリックなのだ。ルーレットのハウスエッジが5.3%であることは嘘ではない。しかし、これはルーレットを1回回すごとに5.3%なのだ。2回回せば再び5.3%がカジノ側に取られる計算になり、あなたの資金はルーレットを回すごとに、5.3%ずつ削り取られていくことになる。ルーレットを20回回せば、あなたの資金の期待値は94.7%の20乗で、約34%に目減りしてしまう。1時間か2時間ほど遊んだだけで、手元の資金は4割以下に目減りをしてしまうのだと、数学の確率理論は告げている。

この極めてシンプルな確率理論を頑なに信じない人は多い。だからこそ、カジノはどこの国でもお客が後を絶たないのだ。そもそも、数学の確率理論というジャンルそのものが、「ギャンブルではどうしてこんなに負けるのだ。いっぺん、ちゃんと計算してみよう」というところから生まれているのだ。

※1 ハウスエッジ・・・胴元が、賭けに対して徴収する手数料の割合。「控除率」とも呼ばれる。

3ギャンブラーの破産問題

まだ、確率理論を信じることができない方のために、決定的な確率理論の成果をご紹介しよう。俗に「ギャンブラーの破産問題」と言われる理論だ。

あなたが100枚のチップを持って、ルーレットに挑むとする。賭けるのは、赤か黒。当たればチップは2枚になる。赤黒に賭けて当たる確率は、0と00のハズレがあるので、18/38=47.4%だ。

これで、1枚ずつ赤黒に賭けていき、100枚のチップが倍の200枚になったらあなたの勝ち。0枚になってしまったらあなたの負けという勝負をするとき、勝てる確率はどのくらいだろうか。ちょっと感覚で考えてみていただきたい。3割ぐらい?いやいや、意外と少なく、1割ぐらいじゃないか。そんな感覚の人が多いのではないだろうか。

これは数学的に正確に計算ができる。この場合の勝率は0.0027%になる。10万人がこの勝負に挑んで、勝てるのは3人弱。残りの9万9997人は、チップをすべて失い、身ぐるみ剥がされてラスベガスの寒空におっぽり出されることになるのだ。

アメリカンルーレット

ギャンブラーの破産確率を求める公式。pが1ゲームごとの勝率。nが所持金。aが目標金額。
ルーレットの赤黒で100枚のチップを200枚に増やすことができる確率は、0.0027%でしかない。

一方、カジノ側の収支を計算してみよう。10万人が100枚ずつチップを買うので、1000万ドルの売り上げが立つ※2。そして、払戻額は、3人分の600ドルだけ。残りはすべて収入になるので、カジノの利益は999万9400ドル。1人あたりの利益は99ドル99セント。つまり、100ドルで遊ぶと、そのうちの99ドル99セントをカジノ側が持っていく計算になる。お客に戻ってくるのはわずか1セント以下でしかない。どこが「ハウスエッジは5.3%というささやかな額でございます」なのだ!

※2・・・1チップは1ドル。

つまり、ルーレットというのは、長く遊べば遊ぶほど、手持ち資金がカジノの金庫に吸い込まれていくようにできている。だから、カジノはお客を帰そうとしない。無料のお酒を振る舞い、フロアにとびきり愛想のいい美女とイケメンを配置し、食事やショーのクーポンを気前よく配り、カジノの外に出させないようにする。

確率理論はこう教えてくれる。ルーレットで、期待値を最も高くする方法は、長く遊ぶのではなく、全財産を1回で賭けてしまうことだ。これであれば47.4%の確率で財産を倍にできる可能性があり、得られる期待値が最も高くなる。

しかし、本当のことを言えば、確率理論が教えてくれる最善の戦略は、カジノにいかないことだ。これであれば、100%の確率で、あなたの財産を守ることができるのだ。

2/3に続く

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